意匠
パッケージに彩りを添える「ファンシーペーパー」。紙に意匠性を付与する、高度な技術とこだわりとは?
みなさんは「ファンシーペーパー」と聞いて、どんな紙を思い浮かべるでしょうか。書籍の表紙やカバー、ノートや便箋などを中心に、ファンシーペーパーは日常のさまざまなシーンで使用されています。紙の名前は知らなくても、実際に手にしてみると「見たことある!」と感じる製品がたくさんあると思います。
ファンシーペーパーは、色や触感に特長がある特殊紙です。今回は当社で開発・製造しているファンシーペーパーを例に、紙に意匠性を付与する技術についてご紹介いたします。
戦後、書籍の装丁と共に発展してきた「ファンシーペーパー」
日本におけるファンシーペーパーは、戦後、書籍の装丁と共に発展してきた紙です。当社では目で見たとき、手に取ったときに違いがわかるよう、特に色と触感にこだわって開発してきました。
「内容を伝えるため、最適な見た目と機能で商品を包む」という意味では、本の装丁もパッケージの一種であると言えるでしょう。ファンシーペーパーは現在、書籍だけではなく、広くさまざまな製品のパッケージにも用いられるようになりました。
ファンシーペーパーの見た目を大きく左右する「色づくり」の技術
ファンシーペーパーの見た目を決める重要な要素の一つが「色」です。当社の製品は着色に使用する薬品をはじめとし、すべてレシピに則って生産しています。
染色は、紙を抄く前、紙のもと(タネ)となる原料を作る工程で行います。パルプの1本1本、繊維の奥まで染めるため、仕上がった当社の製品は折り目や断面が染まりきっておらず白く見えるということがありません。
色は最低でも3色、多いときは8色もの染料を混ぜ合わせることで、一つの色を作り出しています。繊維と染料の接触時間、温度、薬品添加の順序など、長年の経験から得たいくつものノウハウによって、安定した品質を維持しています。
スプーン1杯の染料ですべてが変わる。繊細な技術が求められる
ただし、ファンシーペーパーの製造工程において染色は非常に繊細な作業です。
そもそも原料であるパルプは天然由来のものなので、染料を定量投入するだけで各ロットが全く同一の色になるというわけではありません。
また、一見すると同じ色に見えたとしても、光源や紙の面積によって見え方が異なってしまう場合があります。
例えば同じ服でも、購入した店内の照明の下と、外に出て太陽光の下で見た場合では、印象が違って見えたりするものです。また小さなカラーチップで壁紙に使う色を選んだものの、実際に壁一面がその色になってみると、なんだか思っていたイメージと異なっていた…そんな経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
そういった差異が発生しないように、当社では色を厳密に見分ける専門の職人が、決められた条件下で頻繁に色の確認をし、微妙な補正作業を行っています。数トンの原材料に対し、たったスプーン1杯の染料を加えただけでも全体の色味が変わってしまうため、この色の補正作業は非常に難しく、繊細な工程となります。
紙の見た目と触感を決める「エンボス加工」
さらに、見た目に加え紙の触感をも決める要素の一つが「エンボス」です。加工の仕方によるちょっとした深さや濃淡の違いによって、さまざまな意匠性を付与することができます。
一言でエンボスと言っても、加工するタイミングは製品によってさまざまです。抄紙の早い段階の工程で加工する場合、乾燥の工程で加工する場合、または後工程でシートになったものに加工する場合などがあります。
エンボス加工で使用する版にも多くの種類があるため、製品に合わせ、毛布のような柔らかい素材や、金属のような堅い素材などから選んで使用しています。
機械の数値では再現できない…職人の目による品質管理
このようにファンシーペーパーにとって色とエンボスのバランスは大変重要です。このバランスがほんの少しでも崩れてしまうと、紙の印象が大きく変わってしまいます。そのため生産工程の途中でも一定時間おきに色とエンボスの状態を確認する必要があります。
繊細な染色とエンボス加工、双方を損なわないために手間暇をかけてこだわり抜いた作業を行っているのです。
ファンシーペーパーの外観は、それを見る位置、角度、光源、エンボス状態、その他諸条件によって変わってきます。当社ではエンボスの深さや濃淡の程度も加味し、標準となる色見本と目視で比較して、最終的な合否の判断を行っています。
この品質管理を数値で再現しようと試みたこともありましたが、ファンシーペーパーの場合、機械数値で品質管理をすることは難しく、現時点では職人の目での判断の方が正確なのが現状です。
高度な技術とこだわりが詰まったファンシーペーパー
今回ご紹介したように、みなさんの身近にあるファンシーペーパーには、紙づくりの高度な技術と職人のこだわりが詰まっています。書籍や紙のパッケージ、紙製品を手に取ったとき、その一端を思い出していただけますと幸いです。